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ちくま学芸文庫の新訳版 今村仁司三島憲一鈴木直

第3篇第8章「労働日」

イギリスの全産業部門を見渡しても(最近ようやく始まった機械製パンは別として)、製パン業ほど古風な生産様式を今日まで続けている部門はない。〜〜聖書に詳しいイギリス人のことゆえ、恩寵によって選ばれた資本家や、地主や無任有給牧師でもないかぎり、人間は額に汗してパンを食するよう定められていることは分かっていた。しかもミョウバン・砂・その他の結構なミネラル成分はまだいいとしても、腫れ物の膿やクモの巣・ゴキブリの死骸や腐ったドイツ酵母まで混ぜ込まれていたとは知らなかった。こうして神聖なる「自由商業」への配慮はかなぐりすてられ、それまで「自由」であった製パン業者は国家監督官の監視下に監視下におかれることになる(一八六三年議会会期末)

パンの不正製造と、パンを正規価格以下で売る製パン業者階級がイギリスに登場してきたのは、一八世紀初頭以降のことだ。それはちょうど、製パン業のギルド的な性格が解体し、名目上のパン焼き親方の背後に、資本家が製粉業や粉問屋の姿を撮ってあらわれてきた時期と重なる。


第12章 分業

このように、マニュファクチュアの発生様式、すなわち手工業からマニュファクチュアができあがっていく様式には、二つの種類がある。

第一に、マニュファクチュアは異なる種類の独立した手工業が結びあわされることから発生する。そうした手工業は次第に独立性を失い、一面化され、ついにには同一商品の生産工程内で補足しあう部分作業でしかなくなる。

第二に、マニュファクチュアは同じ種類の手工業者たちの協業から出発し、同じ個人的な職人仕事をさまざまな特別な作業に分解していく。そしてこの特別な作業を他から切り離し、自立化させ、ついにはその作業のそれぞれが特別な労働者の専属機能と化していく。

マニュファクチュアには二つの基本形態から構成されている。〜〜製品は、独立した部分生産物を単に機械的に組み立てることによって作られるか、そうでなければ、相互につながりのある一連の行程と操作によって完成形に達するかのどちらかだ。

前者の例:機械式時計 後者の例:縫製、製紙(”時間的順序で並んでいたさまざまな段階的過程が、そこでは空間的な並列へと変容させられている。”)

マニュファクチュア時代は、商品生産に必要な労働時間の減少をやがて意識的な減速として表明するにいたり、機械の使用も散発的に開始する。

脚注:アダム・スミスは分業については、ただの一つも新しい命題を立ててはいない。しかし、マニュファクチュア時代を包括的に捉えた経済学者としての彼の特徴は、分業を強調した点にある。(中略)アダム・スミスはまた、マニュファクチュアの部分的労働者自身が大いに貢献した用具の細分化とは機械の発明とを混同していた。機械の発明において重要な役を演じたのは、マニュファクチュアの労働者ではなく、学者、手工業者であり、そこには農民(たとえばブリンドリー)さえ含まれていた。

商品交換に媒介されて8点をとげたすべての分業は、都市と農村の分離を基盤とする。(脚注:この点については、サー・ジェイムズ・ステュアートが最もうまく論じている。(後略))

第13章 機械装置と大工業

他のあらゆる労働の生産力の発達と同じように、機械装置は商品を安売りするためのものであり、また労働者が自分のために必要とする労働日部分を短縮するためのものだ。その目的は、労働者が資本家に無償で与える労働日の残りの部分を延長することにある。機械装置は剰余価値生産のための手段だ。